視線。

何かに怯えた目。
見えない何かに脅迫されているかのように。
ろくに考えもせずに発される言葉は、焦りと緊張に張り詰めている。

諦めた目。
瞳に輝きが無い。
目を合わせない。口はへの字に曲がったまま動かない。
たまに笑う。薄っすらと見ていて不安になるような、そんな笑み。

たまにお父さんを顔を合わせると、そんな感じ。
やりきれない思いになる。
訳もなく悲しくなる。でも何に詫びていいのか分からない。
”生まれてきてゴメンね。”
…こんなこと言っても、余計ツラい思いをさせるだけだ。

お母さんのようにはなりたくなかった。
お母さんのように寝室にこもるような半生は送りたくなかった。
少なくとも、お母さんのそんな姿を見たくないと思っていた。
だけど、どうだ。
今の私は、かつての母親そのものだ。
そして、同じものを繰り返し見ているお父さんの心境はどんなものなんだろう。

最後にバイトして、もう半年以上経った。
やばい。
思考能力がどんどん低下してゆくのが分かる。
人とコミュニケーションをとることが、日に日に困難になってゆくのが分かる。
人間はやっぱり、孤独に生きられない生き物なんだ。
…どんどん、歪んでゆく。

どうして。
どうして、私は「寂しい」と思えないんだろう。
そんな激しい感情があれば、外にだって出られる。親も弟も、携帯にだってかじりつき、かつての交友関係も大事にしてゆけた。
何故だろう。心が麻痺してる。…とても、冷たい。

ネグレスト…という単語が過ぎった。
…悪意なんてない。誓って、無い。
ただ一人でいると安心する。とても、とても。

父の目は寂しそうで、侘しそうで。
そして何もかも諦めている。
私もきっと、全く同じように見えているんだろう。

未来が見えない。
明日が見えない。

私が死ぬことで、他の誰かが生きながらえるならば、喜んでこの命を差し出すのにな。
少なくとも、今の私の”生き方”に価値は無い。
全く、無い。