抑えられない。

調子が劇的に悪くなったのはつい最近からだ。
まず、私は賑やかな更衣室で押し合いへし合いしながら着替える状況に耐えられないからいつも30分早く会社に着く。
そして休憩室で始まりのチャイムが鳴るまで読書をしてるんだけど…最近、チャイムが鳴ると心臓がばくばくして、全身の血がいっきに沸騰するような感覚を受ける。席を立つと眩暈にふらつくほどに体の中がムカムカする…。
朝、ニラタックを飲んで昼間も飲む。
朝はまだ、いい。問題は昼。
視線恐怖がさらにひどくなった心地を受ける。
もう、まともに誰の顔も見れない。
どんな表情をしていいかわからず混乱して作業に手がつかない。
前はこれほどひどくはなかった。
もう、本当にわからない。
見られる事も見る事も人に近づかれる事も近づく事も、何もかもが嫌になって………それが仕事に響く。
そんな思いは以前からずっとあったが、決して仕事には響かせないように気を張っていたのに。
今はそんな余裕すらなくなっている。
お昼休みになると、目が潤む。
始終気を張っていて疲れ果ててる証拠だ。そしてそれは午後も続く。一緒に作業してるおばさんが奇妙なものを見るように時々盗み見る。チーフがとても辛そうに何も気づかぬ振りをしてくれている。何もかもが頭を突き抜けてゆく。
次に何をするかわかっているのに足が動かない。
人間という、障害が私の目の前を阻んでいる。

視線恐怖。

仕事が終わって、追われるように会社を出て、クリニックへ駆け込んだ。追い詰められている。もう、だめだと思った。
薬がこわいとかもうそんなこと言ってられないと思った。
治さなきゃ、私だけの問題じゃなくなっている今。治さなきゃ。

…イソクリンは一日3回飲む事になり、それに加えて夜寝る前にメレリルとかいう薬も飲む事になった。

もう、四の五の言ってられない。
…衝撃的だった。
私と一緒に作業してるおばさん二人、そしてまだ若いチーフにまで…
私の病気が、「感染」してる…

当たり前だ、始終一緒に作業してるのにちっとも仲良くしようとしない、挙動が不審な人間と嫌でも一緒しなきゃならないんだから。…
私が撒き散らす不安、不信感、ストレス、敵意をもてあますように無意味に辺りを見回し、所在投げにおろおろする人達。
…。
……。
ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさ…………。

笑い方を忘れてしまった。
キリリと口元は歪み、目じりは鋭く、強張りを見せる。
おそろしくて鏡を見れない。
………
他人の笑い声にすら憎悪を感じている。
そしてそれを隠し通す事ができずにいる。

…ちがう、ちがうよ。
一人暮らしして、孤独になって、それでも頑張ろうと思ったのは。
こんな結果を望んだ訳じゃないよ。

…人為削減には結構厳しいこの会社。
本当にクビになりそう、だ。
…疲れたよ。
……本当に、疲れてるよ……。