近況

決意も薄れた。堕落した人間だという自覚はある。
だけど、今だ底は見えないようだ。まだまだ落ちて行く予感がある。

先日、父に内緒でエアロバイクを通販で購入した。
15500円。精一杯安いのを探して見つけたものだ。
身長160センチ。体重60キロ。
やせれば何とかなるかも知れない。外に出れるかも知れない。
そんな思いで決断したものだ。
―次の日。電話に父が出た。何か話している。
―その次の日。二階にも響く父の怒鳴り声に背筋をびくつかせる。
…配達者を追い返したそうだ。着払いだった事が何より原因だろう。
何ヶ月ぶりに父と話す。
「痩せれば外に出れる」と言ったら「働けば痩せる」と返され何も言えなかった。
もう駄目だ。部屋に戻って声を殺して泣いた。
この涙は何の涙だ。わからない。

―次の日。
エアロバイクの包みが無造作に玄関に置いてあった。

食事はいつもの通り。昼に一度だけ。朝夜は食べない。
一日の目標消費カロリーは500カロリー。
今日でバイクをこいで二日目だ。
朝、空腹の音で目が冷める。
部屋に水を入れたペットボトルを常備する事にした。

バイクをこいでいると、ノックの音がした。鍵は掛かっている。
騒音の心配はないはずだ。父の部屋からは遠い位置に置いてあるし
何より静かだ。
「〜クリニックに行きなさい。今の状態を治して貰え」
「誰かに言われたん？」
「……」
ドアごしの会話。
「行く前に主治医と電話がしたい。電話番号教えて。メモ置いといて。後で取るから」
「わかった」
父は一階に下りて行った。
何もわかってない。電話で何を話せというんだ。
ネットでその病院（一応診療内科らしい）の事を詳しく調べながら、思う。
メモを取るだけ取って、放っておこうか。
気楽な選択肢が浮かぶ。
…薬なんて飲みたくない。
何より私は、今、誰かに優しい言葉を掛けられたら
例え見ず知らずだろうと泣いてしまうはずだ。
…今だって。
涙が出る度、思う。私は飢えている。

髪がまた伸びた。もうすぐ肩に届く。